■展覧会に寄せて
「死んだら昔のこととかその時の気持ちとか、どこ行っちゃうんだろうね」。
世界というのはただひとつ固有の世界があるわけではなく、
それぞれの人間の見たものがその人間にとっての世界を作っていて、
人が亡くなればその人の思い出も丸ごと消滅してしまう。
それが恐ろしくて悲しくて、だから私は絵を描いている。
モチーフは例えば、
元捨て猫だったうちの猫。奇跡のように毎日を楽しくしてくれる。
夫が買ってきたトムとジェリーのガチャガチャのおもちゃ。
おもちゃはかわいいけどむかつく思い出がある。
夫が小さかった頃に遊んだ怪獣の人形。私の知らない彼の子供時代を思う。
バイト先で知り合ったおばさんにもらったくまの手作り人形。
おばさんの名前は忘れたしもう二度と会うことはない。
自然と会わなくなっていった友達と昔行ったベトナム旅行のお土産。
もう旅行自体の思い出も薄れている。
取るに足らない物たちが私の生活の中に点在している。
それらはやがて私から忘れられ、思い出され、また忘れられ、最後は私が旅立つ。
その後でも私のいなくなった世界に、私の思い出が残っていてほしいと願う。
そのために絵を描いている。